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コラム:「ユーロ危機」再来リスク、財政赤字と低成長 極右も台頭 - ロイター (Reuters Japan)

コラム:「ユーロ危機」再来リスク、財政赤字と低成長 極右も台頭

ユーロ圏は「火種」が積み上がり続けている森林地帯と見ることができる。各国はそうした火種を取り除くことに熱心でもない。ただ、彼らは燃えているマッチをそこへ投げ入れる愚かさは重々承知しているし、恐らくは「火消し」に乗り出す消防車的な仕組みも存在する。写真はユーロ紙幣。2022年7月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)

[ベナハビス(スペイン) 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ユーロ圏は「火種」が積み上がり続けている森林地帯と見ることができる。各国はそうした火種を取り除くことに熱心でもない。ただ、彼らは燃えているマッチをそこへ投げ入れる愚かさは重々承知しているし、恐らくは「火消し」に乗り出す消防車的な仕組みも存在する。

つまり通貨ユーロには、10年余り前のような崩壊の危機が起きるリスクが高まりつつあるが、現実化に至るまでの条件はまだ整っていない。

足元の一番の懸念は、国民議会(下院)選挙第1回投票で極右の「国民連合(RN)」が第1党となったフランスが、政治の極端な不安定化と放漫財政の季節に突入する可能性だ。これはフランス国債の利回り急騰をもたらしかねない。

そして特にイタリアをはじめとする多額の債務を抱える他のユーロ圏諸国に影響が波及し、ユーロが追い詰められる。フランスとイタリアは、前回のユーロ危機の震源地となったギリシャなどに比べて、経済規模は格段に大きい。

とはいえ、このようなシナリオが差し迫っているようには思われない。RN党首で首相候補のジョルダン・バルデラ氏は、党公約に関して財政政策面でばらまき姿勢を後退させているからだ。RNは2027年の大統領選で勝利することを見据えており、それ以前に金融危機を引き起こせば、党の信頼を損なうだけだろう。

投資家もそれほど動揺はしていない。マクロン大統領が下院の解散総選挙を表明して以来、フランスとドイツの10年国債利回り差は49ベーシスポイント(bp)から85bpに拡大したが、イタリア国債への「飛び火」は限定的。イタリアとドイツの10年国債利回り差は確かに133bpから162bpに開いたものの、ベルルスコーニ首相時代の2011年は560bpに達していた。

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もっともユーロの中期的な見通しは不安を誘われる。多くの国が高水準の債務を抱え、財政支出拡大を迫られ、成長率は低いという曲面で、ナショナリズムが台頭し、地政学的な対立が問題を悪化させているからだ。

<危機対応手段>

ユーロ圏は金融危機から自身を守る手段を持っている。国債利回り格差が急激に拡大した場合には、欧州中央銀行(ECB)が介入して国債買い入れに乗り出す。この「伝達保護措置(TPI)」は「妥当性を欠き無秩序な市場の動きに対抗する」目的で設計された。

ECBは前回のユーロ圏危機発生当初よりも介入姿勢はずっと積極的になっており、適切な行動を取りながら利回り格差急拡大に苦しむ国には強力な支援を行うとみられる。

ただTPIは無条件に発動されるわけではなく、当該国が「健全かつ持続可能な財政・マクロ経済政策」を追求することが条件となる。だからギリシャが2015年に責任ある財政プログラムを採用するまでそうだったように、そうした政策を怠る国は自力で投資家を対峙するしかない。

<結束阻むナショナリズム>

さらに前回の危機との違いは、金利水準が今の方が高く、政府債務の返済負担が増すことだ。

国際通貨基金(IMF)によると、昨年のイタリアとフランスの債務の対国内総生産(GDP)比は137%と111%、財政赤字の対GDP比はそれぞれ7.2%と5.5%だった。

欧州連合(EU)欧州委員会は先月、フランスやイタリアなど加盟7カ国がEUの財政規律を超える財政赤字を抱えており、過剰な赤字是正を促す手続きを開始すると発表。シンクタンクのブリューゲルの見立てでは、対象国が7年という最長の是正期間を付与された場合、フランスとイタリアはそれぞれ対GDP比で0.5%と0.6%の赤字削減を求められる。

政治家は人気低下につながる歳出削減や増税を嫌うだろうが、欧州委員会との協議には応じる可能性が十分にあり、そうなれば市場は当面落ち着くはずだ。

問題は債務比率が増加し続ける見通しとなっていることで、IMFの試算では2029年までにイタリアの対GDP比は145%、フランスも115%に達する。つまり一定の財政緊縮措置を講じても、債務比率は高止まりするだろう。

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財政赤字削減の取り組み継続も難しい。全ての欧州諸国は国防や気候変動、高齢化への対応で歳出拡大が必要になる。ロシアがウクライナに勝利すれば、各国が緊急的な国防予算の拠出に動く可能性もある。

ユーロ圏各国が債務を抱えながら成長することもできないだろう。フランスは向こう6年の平均成長率が1.3%、イタリアは0.6%にとどまるというのがIMFの予想だ。

地政学的な環境が悪化するようなら、ユーロ圏の経済運営は一段と厳しくなる。米中対立や国際貿易システムの分断が既に世界経済の足かせとなっているが、11月の米大統領選でトランプ氏が勝利し、関税引き上げの公約を実行すれば、経済成長に新たなショックが加わる。

EUが生産性向上や投資拡大ができれば、これらの逆風にある程度対抗することは可能だ。まだエネルギーや資本市場、デジタル通信などの分野を含んでいない単一市場の深化、あるいはEU予算に裏付けられた域内の一元的産業政策を通じて米中との競争力を維持するといった手も打てる。

ドラギ前ECB総裁が座長役となって、近くこうしたEUの包括的対策の青写真をまとめることになる。

ただし問題なのは、このような政策を遂行するには各国がより一枚岩となる必要があるという点だ。域内全体でナショナリズムを提唱する政治家が勢いを増す中で、そうした政策は採用されにくくなり、ユーロ圏は低成長と多額の債務に苦しむ未来が必然のように見受けられる。

森林地帯により多くの「火種」が積み上がる中で、新たな危機が顕現化するリスクはじわじわと増大しつつある。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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