![島根1区 立民の亀井亜紀子が屈指の自民王国で勝利 衆院補選](https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240428/K10014432621_2404261320_0426150603_01_02.jpg)
小選挙区制を導入して以降、日本で唯一、自民党が敗れたことがない全国屈指の「保守王国」島根。両党が総力を挙げた決戦を制したのは、立憲民主党の亀井亜紀子だった。
2人の戦いを取材した。
(松江局 猪俣英俊、佐藤大輔)
「細田家」の島根1区
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この地域では、運輸大臣などを務めた細田吉蔵と長男・博之の細田家が、中選挙区時代から長年、地盤を築いてきた。
細田博之は1990年の初当選以降、連続11回の当選を重ね、2021年には衆議院議長にのぼり詰める。
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自民党県連が後継候補として選んだのが、松江出身の財務官僚で、中国財務局長を務めていた錦織功政だった。
錦織にとって本来は有利とされる「弔い選挙」だが、強烈な逆風にさらされることになった。
自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で、安倍派=清和政策研究会の会長を務めていた細田も、キックバックや収支報告書への不記載に関わっていたのではないかと野党が国会などで再三追及した。
さらに旧統一教会との関わりや女性記者へのセクハラ疑惑なども週刊誌などから指摘されていたのだ。
初の小選挙区の議席目指す亀井
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父は自民党で国土庁長官などを務めた久興で、地元の知名度は高い。
参議院議員を1期務め、前々回の衆議院選挙では比例復活で当選したものの、前回は復活もかなわず、地元で政治活動を続けていた。
日本維新の会は候補者の擁立を見送り、国民民主党の地方組織と社民党は亀井を支援。
共産党の地方組織も自主支援を決め、与野党の対決構図となった。
亀井を支援する連合の幹部は次のように話した。
「今回で勝てなければ亀井の政治生命にもかかわる」(連合の幹部)
「それでも最後は逃げ切れる」
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しかし、ベテランの地元議員たちからは先行きを楽観視する声が聞かれた。
「相手がこれまでと同じ亀井で良かった」
「1対1なら負けない」(ベテランの地元議員たち)
錦織が亀井に最大で10ポイント以上の差でリードを許しているという結果が出たというのだ。
「にわかには信じられない」「地元を引き締めるためでは」楽観的な予想を覆す衝撃的な結果に、陣営からはそんな声が漏れた。
一方で陣営からは次のような声も聞こえた。
「無党派層には逃げられるが、自民・公明のコア層が固まれば大丈夫だ」(錦織陣営)
調査結果がもたらされた時点では、それでも自民公認の錦織が最終的には勝利するという見方が地元では優勢だった。
保守王国の異変 広がる温度差
竹下登・元総理大臣を中心とする勢力と細田家を中心とする勢力だ。
今回の錦織擁立を主導したのは細田に近く、地元で「旧細田派」と呼ばれる県連幹部たちだった。
選挙対策本部長にも「旧細田派」の県議が就き、選挙全体を仕切る形となった。
しかし、こうした状況を快く思っていない者たちもいた。
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3月20日。
錦織の事務所開きで、細田の親族で県連会長を務める細田重雄・元県議が「弔い合戦だ」と発言したのを聞いた「旧竹下派」の支持者は、次のように周辺に不満を漏らした。
「県民から支持されたいなら細田の話は出すべきじゃない。何を考えているんだ」(「旧竹下派」の支持者)
一方、「旧細田派」の支持者らも、活動が低調だとして反発。
「『旧竹下派』の議員が本気で活動していない。地元の新人議員に任せきりだ」(「旧細田派」の支持者ら)
焦りの矛先を互いに向ける状態に陥っていた。
実は熱気に欠けていた選挙の現場
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錦織は、最初の演説に陣営発表で1100人を集めた。
これは前回の細田の第一声の時より300人多く、自民王国の底力を見せた格好だ。
一方、亀井の第一声に集まったのは陣営発表で400人。
錦織のおよそ3分の1にとどまった。
しかしこの日、両陣営を取材した2人の記者は同じ感想を抱いた。
「選挙自体が盛り上がっていない」
一方の亀井はそもそも人が集まらず、数十人、少ない場所では10人に満たない人数で街頭演説を始めることもあった。
岸田総理が入ったものの・・
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報道各社の調査などで劣勢が伝えられる中、岸田総理大臣が島根に入り、車座集会や街頭演説を精力的に行った。
また松江市内のホテルに県連幹部のほか知事や地元経済界の重鎮を招き、政治とカネの問題を謝罪した上で改めて支援を要請した。
この間、自民党幹部も続々と島根に入っていた。
党選挙対策委員長の小渕優子は郡部に入って政治とカネの問題を謝罪し「島根の火を消さないで」と訴えた。
また、隣県の鳥取選出の石破は街頭に立つだけでなく、錦織の訴えを聞いてほしいと自動音声で呼びかける電話作戦を実施。
街頭演説で、当初、政治とカネの問題を積極的に取り上げていた錦織。
途中からは政治とカネは応援弁士の国会議員が謝罪し、錦織は「地元出身の新人にチャンスを与えてほしい」として地域の課題解決を中心に訴える戦略に切り替えた。
しかし、あるベテラン県議はこれまでとまったく違う雰囲気に戸惑いを隠さなかった。
「今回はどんなに呼びかけても自民に投票しないという人の気持ちに変化がない」(ベテラン県議)
さらに「旧細田派」と「旧竹下派」の温度差も埋まらないまま、早くも選挙後の責任を問う声すら県連内から聞こえるありさまだった。
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動員をかけていないのに亀井の演説予定が口コミで伝わり、人が徐々に集まるようになっていたのだ。
喫茶店からわざわざ出てきて演説に聞き入る人の姿もあり、これまでは自民支持だという人も少なくなかった。
これまで自民以外に投票したことがないという夫婦は、次のように話した。
「岸田さんには期待していたが、リーダーシップに欠ける。最たるものが裏金問題だ。今回は亀井さんに託したい」(これまで自民以外に投票したことがないという夫婦)
選挙戦中盤、亀井陣営の幹部は「肌感覚としてまだ熱を帯びている状況ではない」としつつも、反応の良さに驚きを隠せない様子だった。
「高齢者から若い人まであらゆる層が足を止めて演説を聞いてくれる。こんなことは今までなかった」(亀井陣営の幹部)
そして立憲民主党も、党幹部や応援に入った国会議員が手分けをして選挙区内にある事業所をくまなく回り、自民支持層の取り込みを図った。
投票日に向けて勢いを増す亀井陣営。
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立憲民主党や支援を受けた野党の支持層、それにいわゆる無党派層から幅広く支持を集めたほか、自民党や公明党の支持層からも一定の支持を得た。衆議院選挙に小選挙区制が導入されてから、島根県では全国で唯一、自民党が選挙区の議席を独占してきたが、今回初めて議席を失うことになった。
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「多くの人たちから応援してもらって選挙戦を勝ち抜くことができたが自民党の『裏金問題』に対する怒りがベースにあったと思う。『保守王国』といわれるこの島根県での結果は大きなメッセージとして岸田政権に届くと思う」
及ばなかった錦織は次のように述べた。
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「政治とカネをめぐる問題について、自民党を変えてほしいということばをもらい、それ以上にふるさとの島根の発展に貢献してほしい、課題を解決してほしいということばを多くもらった。亡くなった細田博之氏が長く守ってきた島根1区の議席を失ったことの責任を痛感している」
亀井の勝利に
一体、自民王国で何が起きていたのか。出口調査を分析すると、まず目を引くのが支持層の増減だ。
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公明支持層は3%と前回から半減している。
頼みの綱であった自民・公明支持層そのものが目減りしていたのだ。
一方、無党派層は30%で、前回より10ポイント増えている。
そして投票先を支持政党別に見てみる。
自民党支持層で錦織に投票したと回答した人はおよそ70%にとどまり、およそ30%が亀井に流れていた。
そもそも投票に足を運んだ自民党支持層が減った上に、支持層自体も固めきれなかった。
また無党派層のうち、錦織に投票したのは20%余りで、亀井には70%台後半が投票したと回答しているのだ。
島根の変化は日本に波及するか
錦織の落選がきまったあと、陣営幹部の議員は次のように話し、肩を落とした。
「もう島根は保守王国とは言えないのではないか。竹下、青木、そして細田という大物を失った今、求心力が低下していることを自覚する必要がある」(錦織陣営幹部の議員)
中国地方選出の閣僚経験者は一時的な結果に過ぎないと強調する。
「今回の結果は特殊なケースだ。旧統一教会など細田さん自身の問題がいくつも重なっていたところに政治とカネの問題が直撃した」(中国地方選出の閣僚経験者)
一方で立憲民主党の幹部は今回の結果に自信を深める。
「国民の間にとてつもない怒りのマグマがたまっていることが改めて分かる結果だった。総理には一刻も早く解散をしてほしい」(立憲民主党の幹部)
今回だけ自民におきゅうをすえたいとする一時的な現象なのか、自公政権の厚い壁を崩す一穴となるのか。今回の選挙が岸田政権や県政界に与える影響をしっかりと見極めていきたい。
(※文中敬称略)
(4月28日 松江局特設ニュースで放送)
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松江放送局記者
猪俣 英俊
2012年入局。函館局、富山局、報道局経済部を経て現所属。県政や自民党を担当。
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松江放送局記者
佐藤 大輔
2020年入局。松江局が初任地。松江市政と立憲民主党を担当。
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