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クリスマスの写真なんてない…池袋暴走事故遺族の松永さんが憤る飯塚被告の「記憶」 - 東京新聞

真菜さんと莉子ちゃんの写真を前に、記者会見で涙する遺族の松永拓也さん=21日午後、東京・霞が関の司法記者クラブで

 池袋暴走事故遺族の松永拓也さん(34)は21日、東京地裁で開かれた刑事裁判で、45分近く、声を荒げることなく、はっきりとした口調で被告人に直接、質問した。「被告人の口から真実を述べてほしい」という思いを胸に、高齢の飯塚幸三被告(90)にも聞き取りやすいよう、ゆっくりと正確に質問するように努めた。しかし、終わって感じたのは、むなしさだった。公判後の記者会見で明かした被告人質問の裏側とは。(福岡範行)

池袋乗用車暴走事故 起訴状などによると、飯塚幸三被告は2019年4月19日正午すぎ、東京都豊島区東池袋4の都道で、ブレーキと間違えてアクセルを踏み続けて時速約96キロまで加速し、赤信号を無視して交差点に進入。横断歩道を自転車で渡っていた近くの松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3つ)=をはねて死亡させたほか、通行人ら男女9人に重軽傷を負わせたとされる。

 「私は加害者を心から軽蔑しました」。松永さんは会見で、そう切り出し、飯塚被告に対する憤りをあらわにした。理由があった。飯塚被告は松永さんの質問に対して、証拠と矛盾する証言をしていた。

 松永さんは証拠として、事故で犠牲になった真菜さんや莉子ちゃんの写真を提出していた。この日の公判で、飯塚被告に「証拠の中の写真は見ましたか」と尋ねた。飯塚被告は「はい。拝見しました」と答え、記憶をたどって「クリスマスの写真があったような気がします」と話した。しかし、記者会見で松永さんは「そんな写真はないんですよ」と語気を強めた。

 松永さんが問いたかったのは、飯塚被告が、亡くなった2人の命や遺族の無念に向き合っているかどうかだ。最初の質問は「2人の名前を言えますか」だった。

 弁護士と質問を準備する途中、名前が言えない可能性もあると予想していた。そこで、悲しみや怒りにおそわれたら、続く質問ができなくなるかもしれない。最悪の答えも想定しながら、弁護士相手に様々なパターンのやり取りを練習した。そして迎えた今日、飯塚被告から返ってきたのは「悪い方のパターン」だった。真菜さんの漢字は正しく答えたものの、莉子ちゃんの漢字は「難しい字なので、書いてみることができないと思います」。松永さんは会見で「難しいですかね。自分で奪った命の名前が難しいですかね」といら立った。

 それでも被告人質問では声を荒げずに、冷静な態度のまま終えた。その直後、放心状態になった。ドライブレコーダーなどと食い違いがあっても、事故の原因に関わる自分の記憶を「間違っていない」と言い続ける飯塚被告に姿勢に脱力感を覚え、その後のやり取りをメモすることすらできなかった。「1行もメモを取らなかったのは初めてです」

 松永さんに続いて質問に立った真菜さんの父親、上原義教さん(63)は、「立派な仕事をされ、立派に生きてこられた」と飯塚被告の人生を尊重する発言もした。上原さんは会見で「過ちは誰にでもあるという話もさせてもらった。少しは響くかなと思ったんですけど」と意図を明かした上で、「私がバカでした」と続けた。

東京・池袋の乗用車暴走事故で亡くなった妻の真菜さんと長女莉子ちゃんの写真を前に記者会見する松永拓也さん(右)と真菜さんの父の上原義教さん

 上原さんが事故後の2年間の生活について尋ねたとき、飯塚被告は自身のリハビリ生活のつらさから語り始めた。

 記者会見で「真実に近づけたと思うか」と問われた松永さんは「近づけていないと思う」と断言した。それでも、事故原因を断定する言い回しは避け、「あとは裁判所に委ねたい」と語った。会見の最後は、世の中の人たちに交通事故防止を呼び掛けるメッセージで締めくくった。「一番大事なのは、こういうことが二度と起きないこと。救いがない。だから起きちゃだめなんです」

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